INTERVIEW グループイン事例インタビュー

企業情報

株式会社リンクタイズワークス

代表取締役 CEO

安藤 智之

安藤 智之

「売る」のではなく、「挑戦」を選んだ
リンクタイズワークスが描く“未来志向”のM&A

リンクタイズワークス(旧・M&A Works)のM&Aは、一般的な「事業承継」や「経営課題の解決」を目的としたものとは一線を画していた。リンクタイズホールディングス(以下、LTHD)へのグループインは、「困ったから売る」のではなく、「もっと面白い未来をつくる」ための選択だった。代表取締役 CEO 安藤智之(以下、安藤)は、なぜ“イレギュラー”ともいえるM&Aに踏み切ったのか。その背景には、単なる資本提携を超えた、未来志向の経営戦略があった。

「会社を譲渡した今、創業してからの20年間の記憶がフラッシュバックしたよ。ただ、その決断が正しかったかどうかは、すぐにはわからない。M&Aはきっと結婚と同じで、蓋を開けてから本当の生活が始まる。20年後、社員たちの顔を見たときに、はじめて“正解だった”と思えるのかもしれないね」

あるM&Aの成約日、その帰り道でのこと。

安藤は、自身がアドバイザーとしてLTHDへのグループインを導いた企業の経営者から漏れたその言葉を聞き、深く頷いていた。

多くの経営者にとって、会社を譲渡する瞬間は、期待と同時に不安が入り混じるものだ。その経営者が口にした「M&A=結婚。成否がわかるのは20年後」という言葉は、まさにこの業界の真理とも言える。

「困りごと」による売却ではない
業績好調のなかで自ら選んだ“未来志向”のM&A

M&Aを実施する企業は、「後継者不在」や「成長戦略」のように、はっきりした課題があるのが通常だ。そして譲渡企業は、「守れるか(雇用/ブランド/裁量)」「伸びるか(顧客/人材/投資)」「任せられるか(ガバナンス/意思決定)」の3つのポイントを最大限に吟味して意志決定するのがM&Aで多いケースである。

しかし、リンクタイズワークスのケースはそれらとは全く異なっていた。

「私たちは創業間もない頃から、大手M&A仲介会社とコンペになっても負けない確固たる実績を築いてきました。このまま単独で成長を続けていくことも十分に可能でしたし、一般的にM&Aを検討する理由になるような“困りごと”は、何ひとつなかったのです」

これといった課題はなく、「面白いことができる」ための企業譲渡はいささか特異に思える。好調に進んでいたなかで、なぜ彼らはM&Aという選択をしたのか。

その背景には、ビジネスメディア「Forbes JAPAN」を擁し、多角的な事業を展開するLTHDとの関係性があった。実は両社は、創業当時から出資元を同じくする兄弟企業として、良好な関係を築いていたのだ。

LTHDとの出会いは2021年の創業時にさかのぼる。元顧客の紹介をきっかけに、安藤はLTHD代表取締役社長の角田勇太郎と知り合った。リンクタイズワークスの事業構想に共感した角田を始めとする経営陣から資金調達面で支援を受け、創業が実現した。

「1年目は赤字でも、2年目には黒字化する」

安藤がそう宣言した通り事業は順調に成長し、2年目には企業価値はすでにベンチャーキャピタルから十数億円規模の評価がつこうとしていた。そんななか角田は、「ここまで成長したのなら、持ち株比率をもっと高めたほうがいい」と、独立性を尊重した提案までしていたという。

Forbes JAPANブランドの活用機会に加え、精神面や知見面での支援はありながらも、経営そのものには深く介入せず、オーナーシップを徹底して尊重してくれた──。安藤は、その姿勢にあらためて強い恩義を感じていた。

高い評価額を手放してでも
「グループ全体の進化」と「社員の成長」を選んだ理由

独立企業としての成功は、すでに手の届くところにあった。しかし、安藤の視座は自社単体のスケールアップではなく、実現したいビジョンを優先するため、自らLTHDへのグループインを持ちかける。

「M&A業界では、情報を右から左へ流すだけの『ブローカー化』が横行していることに強い課題感を持っていました。もし、LTHDが持つ『Forbes JAPAN』などのメディアブランドや多角的なソリューションの基盤と、私たちのM&Aの知見を掛け合わせることができれば、業界に全く新しい価値を提供できると考えたのです。

正直に言えば、グループインによるリンクタイズワークス単体での経済的なメリットはほとんどありません。むしろ、優秀な人材がグループ全体のプロジェクトに関わるため、一時的にパワーダウンすることも覚悟していました。

それでも、自らがグループの成長エンジンとなる道を選んだ。それは、私自身がより大きなフィールドで経営に挑戦したかっただけでなく、何より社員たちに、単体では決して経験できないような機会を用意したかったからです」

それは、単なる“売却”の発想ではなかった。安藤は、目先の経済的利益や、独立企業としての高い評価額を手放してでも、自らLTHDへのグループインを提案したのである。

とはいえ、先述した「守れるか・伸びるか・任せられるか」という不安はなかったのだろうか。

「グループインに関する不安はありませんでした。その理由は、すでに気心が知れていたLTHDの明るく真摯でまっすぐな社員が大好きだったからです。社員が社員を好きという社風はなかなかありません。それから角田さんを筆頭に経営陣への強いリスペクトがありましたし、グループにはリンクタイズワークスに対してだけでなく、グループ企業それぞれに対するオーナーシップの尊重という文化がありました。

もちろん、LTHDが掲げる5つのバリュー──『Creativity』『Professionalism』『Help each other』『Flat and Lean』『Work is Life』にも以前から強く共感していました。肩書きに縛られず、率直に議論を交わすカルチャーを大切にしているところも含めてですね。こうした文化面で齟齬があると、M&Aは決してうまくいきませんから」

自社の経営幹部がグループ全体のCFOへ
譲渡企業の枠組みを超える「異例の抜擢と裁量」

「グループインには、これまで私たちが手がけてきたM&A業務の枠を超えた挑戦も含まれていました。LTHD内に、経験豊富なM&Aのプロフェッショナルがいることで、グループ全体のM&A戦略や成長戦略を推進するエンジンとして貢献できる。さらに私たち自身にとっても、グループで動くことで社員一人ひとりの活躍の幅や成長機会が大きく広がると感じたのです」

実際にグループイン後、リンクタイズワークスにどのような変化があったのか。安藤は、「驚くほど変わっていない」と強調する。オーナーシップの感覚も、グループイン前とほとんど変わらないという。

むしろ、リンクタイズワークスの社員たちは単なる「譲渡した側」の枠を超え、グループの中枢へと活動の場を広げている。

「驚くべきは、LTHDが我々の人材をグループ全体の要職に抜擢してくれたことです。リンクタイズワークスで経営の中核を担っていた経営幹部は現在、LTHD全体のCFO(最高財務責任者)として財務を取り仕切っており、他のメンバーもAI推進室などグループのコア事業に参画しています。通常、M&A後は親会社から管理される側になりがちですが、LTHDは実力と志さえあれば、グループインした側の企業の人間であっても中枢を任せてくれる。これが、社員たちの圧倒的な成長とやりがいにつながっています。さらに、こうした多様なキャリアパスやグループの知名度は、採用活動においても強力なフックになっており、優秀な人材獲得を後押ししてくれているとも実感しています」

さらに、SBIホールディングスとの資本業務提携など、経営インパクトの大きい取り組みも次々と実現してきた。

「こうした挑戦を短期間で形にできたのは、LTHD経営陣の決断力の速さが大きいと思います。それでいて、アイデアや助言はあっても、“最終的な意思決定はこちらに任せる”という文化は変わらない。事業計画を含め、オーナーシップを尊重してくれる姿勢には、一切ブレがありません」

ただその一方で、安藤は「リンクタイズワークス単体のパワーは、一時的に落ちている」とも率直に語る。

「優秀な社員たちがLTHD全体のプロジェクトに関わるようになり、私自身もグループ入りした企業の取締役を務めるなど、時間もリソースも分散しています。だから、単体で見ればパワーダウンしているようにも見えます。ただ、その代わりに社員たちは、これまででは考えられなかった事業や人脈に触れ、圧倒的に大きな経験を積んでいる。仕事へのやりがいも増していると思います。実際、みんなの表情がすごくいいんです」

「現在のリンクタイズワークスについて、安藤は「挑戦の真っただ中にいる」と表現する。

「LTHDは、単にチャレンジを許容するだけではありません。自分の殻を破ろうとする人の背中を押すことに長けている組織なんです。私自身もそうですし、社員たちもそう。まだ具体的には語れませんが、今リンクタイズワークスは、大きな夢に向かって加速している最中です。これから、もっと面白い展開になっていくと思います」

「現状維持」か「挑戦」か
さらなる成長を目指す経営者へ

数々のM&A案件を手がけ、譲渡企業・譲り受け企業の双方と向き合ってきた安藤。さらに、自らも“当事者”としてグループインを経験したことで、あらためて見えてきたことがあるという。

「根本的に大事なのは、自分が“現状維持”を望むのか、それともM&Aをきっかけに新しい挑戦をしたいのか、という価値観です。そこがズレていると、M&Aはうまくいきません。私自身は、“昨日より今日、今日より明日”と、ひたすらチャレンジを続けたいという思いがあった。だからこそ、他の好条件もあったなかで、LTHDへのグループインを選びました」

そのうえで安藤は、同じ志向をもつ経営者にとって、LTHDは非常にユニークな環境だと語る。

「オーナーシップをしっかり尊重しながら、迷ったときには背中を押してくれる。そういうグループは意外と少ないと思います。社員のキャリアの可能性も大きく広がりますし、自分自身の経営視座も確実に上がります」

もっとも、グループインした企業は、いわば“転校生”のような存在でもある。既存組織に自然に溶け込むには、丁寧なコミュニケーションが欠かせない。グループのM&A推進を担うリンクタイズワークスでは、受け入れを円滑に進めるための取り組みにも力を入れている。

「転校生が孤立してしまわないように、勉強会や交流会を積極的に開いています。コミュニケーションが十分に取れていなければ、ビジネスの成功なんてあり得ませんから」

そして最後に、安藤は再び“社員の表情”について語った。

「M&Aが成功だったかどうかは、結局のところ、社員たちの顔が輝いているかどうかだと思うんです。少なくとも私は、20年も待たずに、その笑顔を見ることができている。この時点で、すでに大成功だと思っています」

Profile

あんどう・ともゆき
金融機関を経て2014年に大手M&A仲介会社へ入社し、新部署の立ち上げに参画、医療業界を中心に多数のM&Aを成約させた歴戦のアドバイザー。製造業、IT、不動産、建設、設備工事など業種を問わず累計100件以上の成約実績をもつ。21年10月にリンクタイズワークス(当時 M&A Works)の代表取締役CEOに就任。24年7月にリンクタイズグループにグループイン。

text by Ryoichi Shimizu / photographs by Shunichi Oda / edited by Akio Takashiro